リノ・エアレースの基礎知識 (1)





◎リノ・エアレースとは

 米国ネバダ州の北西部にある、シエラネバダ山脈の観光拠点でカジノ・シティでもある「世界最大の小都市」と自称している リノ。 そこから北へ10マイル辺りにあるリノ・ステッド空港を舞台にして1964年以来毎年(但し2001年は9.11テロの影響で、2020年は COVID-19 感染症拡大の影響で開催中止) 9月半ばに行われている航空機によるレースが「リノ・エアレース」です。 正式には National Championship Air Races といって、1920年から始まるアメリカでのエアレースの伝統を受け継いでいます。 現在行われているパイロンレースはその原型がナショナルエアレースで行われていたトンプソン・トロフィーにあります。
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 リノでのエアレースは出場する飛行機の種類によってクラス分けがされ、地面に立てた目標塔=パイロンで示された楕円形コースを周回して順位を競う「パイロンレース」と言う方式で行われます。

 最高峰のアンリミテッドクラスは第二次大戦で使われた戦闘機を改造したレース機=エアレーサーがレシプロ機の限界速度に近いスピードでコースを周回する「世界最速のモータースポーツ」です。 レースの合間にも会場上空では各種のエアショー・パフォーマンスが繰り広げられる、毎年20万人ほどの動員がある一大航空イベントです。


◎リノ・エアレースのクラス分類

○アンリミテッドクラス

 リノ・エアレースにおける最高峰クラスで、ピストンエンジンによるプロペラ推進、乾燥重量が4500ポンド=約2041kg以上(重量規定は2005年から追加)でさえあれば他には機体に対する制限がないクラス。 コースは開催年によって若干変動する場合もありますが現在のルールでは全長約7.9マイル。 最速の機体では周回速度が約500mph=805km/hに達します。
 主にP-51マスタング、ホーカー・シーフューリー、グラマンF8Fベアキャットなど第二次世界大戦当時の戦闘機によって争われます。 出場機の多くはストック・コンディションと呼ばれるオリジナルに近い姿をしていますが、上位を争う機体は機体に高度な改造を施されたレース専用仕様で、レース用にチューンされたエンジンへの載せ替えや冷却システムの更新でオリジナルの数倍の出力を誇る機体も存在します。 数例ですが過去には大戦機ではない、レース専用設計の機体が出場したこともあります。
アンリミテッドクラス出場機 P-51D #11 Miss America
アンリミテッドクラス出場機 P-51D #11 "Miss America"

○ジェットクラス

 2002年から新設されたクラスで、当初はチェコ製のアエロL-39アルバトロス練習機によるワンメイクレースでした。 2007年からは主翼の後退角が15度未満でエンジンのアフターバーナーが未装備の機体へと対象を拡大して争われています。 この規定に該当する機種はL-39の他にアエロL-29デルフィン、フーガ・マジステール、ロッキードT-33、ノースアメリカンT-2バックアイ等があります。
 コースはアンリミテッドと同じで、周回速度はアンリミテッドとほぼ同等。 最近はアンリミテッドのコースレコードを上回る記録も出ています。
ジェットクラス出場機 L-39 #54 Robin 1
ジェットクラス出場機 L-39 #54 "Robin 1"

○AT-6/SNJクラス

 T-6またはAT-6/SNJクラスと表記されるノースアメリカンAT-6 (空軍呼称)/SNJ (海軍呼称) テキサン練習機によるワンメイクレース。 機体に対する改造が厳しく制限されているので接戦になりやすく、パイロットの操縦と各チームで機体に施す微妙なセッティングのノウハウが勝負に大きく影響します。
 コース全長は約4.9マイル、速度は概ね210〜220mph。 他のクラスと比べるとあまりスピード感はありません。
AT-6/SNJクラス出場機 T-6G #24 Fixation
AT-6/SNJクラス出場機 T-6G #24 "Fixation"

○スポーツクラス

 1998年から新設された市販或いはキットの高性能単発機によるクラスで、出場する機種には5機以上の量産規定と民間機としての連邦航空局の滞空証明が義務付けられています。 他のクラスでは大戦機や自作機など特殊なカテゴリに属する機体が殆どなのでこういう義務はありません。 またエンジンの排気量が650立方インチ以下とされ過給も許されています。
 コース全長は当初約6.4マイルでしたが現在は出場機数の増加によって拡大され下位クラスのメダリオンレースではAT-6クラスと同じ4.9マイル、中位のブロンズとシルバーレースで約7.0マイル、上位クラスのゴールドレースではアンリミテッドと同じ約7.9マイルのコースで争われ、最高速度は400mphを超えます。 高級小型スポーツ機メーカーの販促戦略が絡む事もあって有力チームではメーカーのワークス体制が組まれるなど、リノでは一番近代的なクラスです。

○フォーミュラワン (IF1) クラス

 インターナショナル・フォーミュラワン、略してIF1とも言われる、超小型の単発スポーツ機としてリノのレースが始まる以前から存在する規定に基づいた機体で争われるクラスで、リノでも最初の年から続いています。 機体には排気量200立方インチ(約3.3L)で100hpのコンチネンタルO-200エンジンを搭載し、固定ピッチプロペラ、固定脚、翼面積66平方フィート(約6.2平方m)以上、空虚重量500ポンド(約227kg)以上などの規定があります。
 リノでのコース全長は約3.1マイル。 これを約250mphで周回します。
IF1クラス出場機 Cassutt IIIM #57 Knotty Boy
フォーミュラワンクラス出場機 Cassutt IIIM #57 "Knotty Boy"

○バイプレーンクラス

 1968年からの歴史あるカテゴリで、スポーツ・バイプレーンという小型複葉機によるクラス。
 機体にはライカミングまたはスーペリア製で排気量360立方インチ以下のエンジン、固定ピッチプロペラ、固定脚、翼面積は75平方フィート以上で、小さい側の主翼面積が総翼面積の1/3を越えること等の規定があります。 このクラスは参加機の大半が日本でもおなじみのピッツスペシャル複葉機で占められています。
 コースはIF1と同じで、周回速度も最速の機体はIF1とほぼ同じ250mphですがクラス全体の平均ではIF1よりやや遅め。
バイプレーンクラス出場機 Pitts S-1S #12 Class Action
バイプレーンクラス出場機 Pitts S-1S #12 "Class Action"





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